おじゃまします -協豊会 篠原関東地区幹事に聞く-
 協豊会広報委員会は、10月28日(金)に三桜工業㈱本社(東京都渋谷区恵比寿)において、篠原代表取締役社長にインタビューを行いました。
 篠原社長には会社概要、沿革、企業体質強化へのお取組みや、関東地区幹事として、協豊会活動へのお考えや思いなどのお話を伺いました。
「会社概要、沿革についてお聞かせ下さい」

◆飛行機部品から始まり、酒、家電を経て自動車業界に◆
 当社は77年前の1939年に、大宮航空工業㈱という今とは全く違う社名で設立しました。大宮というのは当時の工場が埼玉県大宮市(現・さいたま市)に在ったことによります。中島飛行機で作っていた戦闘機の「隼」とか「疾風」などの部品を製造したのがスタートです。

 終戦を迎えて航空産業が無くなり、作る物も無くなってしまう中で、戦後の混乱期を乗り切って行くために醸造権を得て、1949年に三桜化醸㈱という社名に変えてお酒を造ることになりました。当時は本社を現在の工場が在る茨城県の古河市に移しておりまして、そこでは芋が採れたということから焼酎を造ることにして、更にウィスキーやワイン等の製造も始めました。「三桜」という社名は製造業では変わった名前ですが、実はお酒のブランド名を社名にしたものなのです。

 しかし、創業者たちのものづくりに戻りたいという思いは強く、これから日本を支えるのはやはりものづくりだということで、1952年に三桜工業㈱に改称し、小型モーターの製造を始めました。テープレコーダーや洗濯機に使うモーターです。それで家電業界に参入することになりました。その後、醸造権を三楽酒造(現・メルシャン)に譲渡し、その資金で次に手がけたのが冷蔵庫の裏面に取り付けるワイヤーコンデンサーでした。これを作るために、銅メッキ鋼板を丸めてパイプを作る技術をアメリカから導入し、1962年から量産して事業を拡大しました。

 こうしたパイプを作り、曲げる技術をさらに進化させて、1963年から自動車のブレーキチューブの製造を始めました。そこが自動車業界に入った最初となります。当時の自動車の生産はまだ少なかったのですが、その後、一気にモータリゼーションとなり生産が増えて、燃料チューブも作るようになりました。更にその次には排ガス規制の話が入ってきて、トヨタさんとのお取引で、排ガス対策用のエンジン関係部品の製造に入り、軽量化ということから樹脂の製品にも入って行きました。
 この様に家電の次には、自動車を切り口にして事業を拡大して来ました。

◆早くからのグローバル展開◆
 もう一方で、グローバル化というのも当社の特徴の一つとしてあります。1980年代に入り、グローバル展開を本格化しました。アジア、米州地域から始まり、90年代に欧州、2000年代に中国、ロシア等の新興国に生産拠点を順次増やして行き、現在では23カ国88拠点にまで拡大しました。
 海外展開を積極的に進めて来た背景は、当社の車両配管製品はブレーキチューブなどの荷姿が大きいため、極力お客様の近くで加工し納入することを目指し、自動車メーカー様の海外進出に合わせて、一緒になって現地生産化に取組んで来たことにあります。

 この様に、業態の変化やグローバル化を進めて来ている会社ですが、これを実現した諸先輩たちの目の着け方や判断の速さに大いに敬意を表すべきと思っています。そして、それを三桜工業のDNAとしてこれからも活かしていくことが私共の使命だと思っています。


「環境変化が激しい中、体質強化のお取組みについてお聞かせ下さい」

◆グローバルネットワーク化◆
 ここまで築いてきたグローバル体制をどうやって強みに活かすか?を考えると、これからは海外拠点間・地域間での連携、ネットワーク化がポイントになると思っています。取組みとしては、部品の相互供給によって為替変動に対する抵抗力を強める、或いは最適地調達でコスト的に有利なものを融通しあうとかを始めています。
 また、これは自然災害などのリスクの回避・分散に対しても有効に機能します。例えばタイの洪水の時には、当社タイ工場は2mの水に浸かりましたが、世界中の当社拠点から必要な製品、部品を調達し、お客様への供給責任を果たすことが出来ました。

◆完全現地生産化とグローバル調達戦略◆
 現地生産化を進めてきましたが、ここに来て現地でのTier 1との競争の中で、今まで日本で作っていた非常に高度で精密な、技術的にも品質的にも高いレベルを求められる製品をも現地で生産しなければなりません。そうなると現地でのものづくりの難易度が一気に上がり、精度や品質のレベルの上がった物を、更には構成部品や材料も現地で調達して作るという完全現地生産が求められています。
 この様な状況に対して、現地で如何に現地サプライヤーを発掘し、指導・育成して行くのかという領域まで踏み込んだグローバル調達戦略が課題だと思っています。


「安全、品質、環境などのお取組みについてお聞かせ下さい」

◆自工程完結と情報の共有化◆
 当社製品のブレーキチューブや燃料チューブは、お客様の命に直結する重要保安部品なので、当社の企業理念の中で、「ステークホールダーの『安全と安心』、『環境保全』のために力を尽くすこと」をMissionとして定めています。
 本年度の事業方針で、基本に立ち返って品質・安全向上のために『自工程完結』を改めて掲げました。不良品を仕込まない、受取らない、作らない、流さない、異常を見逃さない、と言ったキーワードを持って、今、全工程のチェックを日本から始めており、グローバルで連動して実施して行きます。不良を流出させないこと、それに安全も含めて事故発生を未然に防ぐ、そういう力を付けて行こうということで、改めて今年から気合を入れ直して取組んでいます。

 情報の共有化の面でも全世界・全事業所で、品質や安全の問題が起きると直ぐに社内イントラネットに登録し、オープンにするというルールにしています。そして、何処で何が起こっているのかの情報を共有化して、対策の横展開を図るようにしています。

◆設計・開発段階からの品質強化◆
 昨年、トヨタの技術部さんのご指導を頂き、仕入先の設計・品質問題未然防止活動である「S-MB活動」を実施し、トヨタさんから合格点を頂くことができました。併せて、DRBFMのエキスパートの資格も取らせて頂きました。トヨタさんから今後もご指導頂きながら、ますます高度化する製品に対して、設計・開発段階から品質の作り込みを行っていきます。

◆安全は地道な活動を継続◆
 安全は、実際の取組みについてはなかなか新しく斬新なものというのは無くて、やはり皆様もやっておられるように、現場安全点検による改善指導とフォローとか、ヒヤリハット情報のイントラネットでの共有化とその対策横展開などの活動を地道に継続しています。
 また、現場ではないですが、通勤途中での交通事故が少し目立ってきていることから、社員と近隣の住民の方々による交通安全教室を主催し、地域を含めた交通安全活動を継続しています。

◆環境に優しいブレーキチューブ製造ラインを開発◆
 従来の一般的なブレーキチューブ製造ラインは、「全工程長340mで生産200万台分」を前提にした、非常に大掛かりなものでした。そこには大型の炉やメッキ設備が使われ、大きなエネルギーを使用することで、CO2排出が多いという課題がありました。また、そのメッキには廃水処理が必要であり、環境負荷が高いという課題もありました。
 それを当社ではこの度、「大きさ4分の1で生産40万台分」を前提にした、全工程長を80~90mにコンパクト化した、生産ボリュームをそれほど必要としない新しい製造ラインを開発しました。これにより炉を使わず消費電力量が圧倒的に減らせて、メッキの廃水処理も要らなくなります。効果として、CO2排出は従来の半分以下に出来る見込みですし、廃水による環境負荷も無くなります。今後、この新しいラインをグローバル各地に導入していきたいと思います。


「関東地区幹事さんとして、協豊会活動についてのお考え、メッセージをお願いします」

 関東地区の幹事をやらせて頂いて3年強、この間、トヨタさんの調達役員をはじめ幹部の皆様と、更に言うと豊田社長さんまで、こんなに頻繁に近くでお話が聞けて、お話も出来ることに驚き、非常に感激しています。また、実際に工場見学をさせて頂いたり、新しいクルマに乗せて頂いたり、新技術に触れさせて頂ける場があるということ自体に感動し、本当に良い勉強をさせて頂いていると思っています。

 豊田社長さんや皆様のお話を伺っていますと、自動車メーカー・企業としてだけではなくて、日本の自動車産業を、更には世界の自動車社会をどう発展させて行くかという大所高所に立ったお話をお聞きできるので、これはもの凄く刺激になりますし、自分たちも日本の自動車産業・部品メーカーの一員であるということを強く認識させて頂いてます。
 ですから今後とも協豊会という場を通じて、私共もトヨタさんや会員会社の皆様と共に、日本の自動車産業を背負って立つくらいの気概で一緒に取り組ませて頂きたいと思っています。


「ご趣味、座右の銘、健康法などお聞かせ下さい」

◆ご趣味◆
 Fly Fishingをやっています。
Fly Fishingは釣の中でも一番釣れないと言われる難しい釣です。季節、気温、天候、時間により、魚たちが餌とする水生昆虫の生態が違ってきます。渓流に行って、今、この瞬間どういう水生昆虫がそこで活動をしているのかを読み、それを魚がどのように食べているのかということを想像しながらFly(毛鉤)を選びます。これをあたかも生きている昆虫のようにキャストして流れに乗せ、魚の居る場所に自然に流す。その全てが完璧に一致して初めて魚が喰い付きます。
 ウェーダーを履き、Flyのロッドを持って緑溢れる山の清流の中に立ち込むと、日頃のストレスが全て流れて行きます。また、自然を研究し、自然と一緒になって魚の気持ちを考え、それに対して戦略を練り、自分のプレゼンテーションが当たった時の醍醐味は格別です。これは、感性を研ぎ澄ませて、世の中を把握して次の一手を打つという意味で、マーケティングそのものではないかと自分では勝手に思っています。

◆座右の銘◆
 「絶えざる改革」です。
 当社は企業理念の中のCorporate Mottoとして「経営全領域にわたる絶えざる改革」を掲げています。これは、当社が今まで時代時代の変化を捉えてチャレンジして変わってきている、絶え間ない改革を遂げているということを大事にしたいということで制定し、私自身もずっと大事にしている言葉です。

 今、自動車産業を取り巻く環境は、クルマが誕生して以来の大きな変換期に入ったと感じます。電動化、自動運転、コネクティッド、ライドシェアなど、これまでのクルマの在り方自体がここから先、大きく変わろうとしています。ここを生き残るためには大きく変化して行かなければなりません。一方、当社の今の製品を考えてみると、燃料チューブやエンジン部品などが無くなってしまうことになりますから、これは大変なことだという危機感を持っています。ドイツが議会で、2030年以降は内燃機関を禁止することを決めたと報じられています。本当にそういう時代が、想像以上に早くやって来ると思わざるを得ません。
 それに対して、今まで過去、当社が変わってきたようなことを起こさなければいけない。それで、改めてこの「絶えざる改革」を強く思っているところです。



本日はお忙しいところ、ありがとうございました。
篠原社長(中央右)を囲んで・・・
石塚広報委員長 (太平洋工業㈱ 取締役副社長):右
  釣谷広報副委員長 (パイオニア㈱ 常務執行役員):中央左
  大村事務局長 :左

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